紫煙が繋ぐ、男達との出逢い

RINGOKAN

2008年12月28日 22:00










ここは、東京の小洒落たCigar Bar などではない。

都内からなら高速を使っても2時間は西へ走る。

北方謙三の作品「ブラッディードール」に登場する、N市から100kmほど離れた町。

ここは、そんな田舎町にある小さな男の隠れ家なのである・・・





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これは他愛もない日常的なひとコマにしか過ぎない。





いつもと変わらない土曜日。

真っ白いシャツにはノー・タイ、腰には長いサロンを巻き

先ほどまでディナーを楽しんでいただいた、お客様のお皿の全てを洗いあげ

そして、僕はここからいつも気持ちを切り替える。



昨夜はなぜか、お気に入りのLV のネクタイではなく、一昔前にバーテンダー

勝木康隆氏からいただいた、シルクが剥げだした黒の蝶タイを巻きたくなった。

腰にもシルクのカマー・バンドを巻き、黒いバー・コートを羽織る。

久しぶりに気が引き締まる。





21:30。

一台の白いボルボのステーション・ワゴンが、音を立てずに静かに駐車した。

70−70

車から降りてきたのはトレードマークの黒い帽子が似合う男、若干22歳。

今夜も浜松市から、何本かの葉巻とともにやってきたようだ。



今夜まず彼が手にしたのが、特別な夜にカットすると決めていたという葉巻。

モンテクリストのリミテッド・エディション " C " 。

今夜は愛用のリングをはめ、トリプル・リングに。











モンテの後ろに控えているのは、この次に嗜むであろうハバナとドミニカである。











次にやってきたのは " petit "。

" petit " とは、小柄であり皆から親しまれる彼の愛称である。

可愛らしい彼が今夜持ってきたハバナは、ホヨー・ド・モントレー・ペティ・ロブスト

トリニダッドのレジエス、彼の歳で楽しむべき相手ではない。

サイズこそ可愛らしいが、なかなか手強い相手である。

なぜなら、彼はまだ  歳なのだから・・・




 






他のお客様も次々にご来店。



次に近所からココへ足を運んでくれたのは、22歳の男2人組。

彼等は、キューバのポル・ララーニャガのペティコロナを燻らせながら

それは22歳らしい語らいを紫煙とともに楽しんでいた。





真っ白なボルボの横に、一台の真っ赤なアウディが滑り込む。

ドアを開けたのは、ハミルトンのH77665873 が最も似合う男。

彼のメインの家は横浜にある。



今夜彼が両手に抱えてきたのは、トリニダッドのコロニアレス1箱。

そして、他のハバナが数本。



やることが違う。

そして、話し方が非常に綺麗な男である。










この質感を垣間見るだけで、トルセドール達の息遣いが聞こえそうになる。

先日30代半ばに近付いた彼は、群を抜いた葉巻愛好家であることは誰もが認める。









今夜彼がまず左手に取ったのは、コイーバ・マデューロ・5・ヘニオス。

デカくて黒く、存在感もたっぷり。

彼のこだわり、リングはすぐに外す。

今夜のヘニオスは、もう少しだけ違う楽しみ方をした方が、彼にとっては

もっと満足できたようである。

そう、「高いもの」が、「美味いもの」ではないのである。

しかし、エキスパート達は、それをどのようにしたら「もっと楽しめたのか」と

常に貪欲であり、また、常に熱い情熱を注ぐ。











左腕にハミルトンをしていた彼がコイーバに火を点す頃

黒尽くめで変装でもするかのようにやってきたのは、通称 " 運び屋 " の男。

40代半ばの彼はまず、店内の温かさを味わうようにバハマのグレイクリフを。

紫色のリングが特徴のシャトー・グランクリュである。



それぞれが、それぞれの紫煙を楽しんでいる中、今夜最後にご来店してくれたのは

" 和製 チェ・ゲバラ " ともいうべき風貌の男。

ここから二つほど離れた街に住む、幼子を持つシガー・ラヴァーである。



彼に手渡すのが少し遅くなってしまった

バーテンダーからのささやかなクリスマス・プレゼント。

男の約束はいつも真剣なのである。




今夜彼は「特別な日に」と決めていた、コイーバのシグロU+2162をカットする。

ひと口ひと口を確認するかのように燻らすその姿、それは非常に印象的だった。











そのうち今夜2本目の紫煙を楽しみだす者が。

最初の彼はモンテクリストの " C " からポル・ララーニャガのモンテカルロ。

そのあとにはダヴィドフ2000 をも。

" petit " はモンテクリストのペティ・エドムンドをカットする。

" 黒くてでかい " コイーバを綺麗に吸い上げた彼は

次に高品質で名高いモンテのNo.4 を左手に取る。

バハマ産のシャトー・グランクリュを楽しんだ通称 " 運び屋 " の男は

'02 ヴィンテージののサンルイレイ・ロンズテールを。



リングがここまで並ぶと圧巻。

昨夜ここに来た全ての男達が、それぞれの葉巻を華麗に扱いだす。

ここは可笑しなBAR なのである。











仕事時間を終え、僕はこの日誰も落とさなかったビトラを手にする。

名品、ラモン・アロネスのスペシャリティ・セレクテッドを。












葉巻を嗜む時間、そこでの会話は葉巻の話しだけではない。

いわゆる「葉巻愛好家」達の話しもぞくぞくとでてくる。



大胸筋、そして三角筋が大きく発達しているのが、服を通してもわかる

格闘家の秋山に似た、神奈川県藤沢市に住む男。

彼の話題もなぜか尽きない。



" いかした男 " とは、そんなものなのだ。











この日のビトラは、茶事で炉に焚く白檀などの香木や

煉り物を想像させる馥郁としたフレーヴァーに感動。

まさに「大地の香り」を感じさせてくれた。











これだけの葉巻をたった6、7時間で灰にしてしまう。

もちろん葉巻に敬意を表し、また、それぞれの葉巻を巻くトルセドール達を想い

ひと口ひと口それらを味わい、そして、それらを理解しあえる者同士で語り合う。

それは、セレブリティを気取って闇雲に、無意味に " 吸う " 者達とは全く違うように。











同じモノに興味を持った者同士がいる空間での時間は、過ぎるのが非常に早い。

それを惜しむかのように、男達がまたカッターを手にする。











この数時間を楽しんだ後に残るのは、葉巻の吸殻だけではない。

男達がここに残してゆくのは、無骨なほどの優しさとマナー、そして新しい約束。



心の中でそれぞれが想う。

偶然ではない必然的な出逢い。











いつもと変わらない土曜日。

少しだけいつもと違ったのは、昨夜が2008年最後の土曜日。

彼等なりの今年最後の挨拶。

嬉しい限りである。











2008年も、様々な男達と出逢うことができた。

2009年年はどんな男達との出逢いがあるのだろう。

考えるだけで、楽しみでしかたない。






















皆への感謝は尽きることはない。










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