隣に座る紳士から受け取ったのは、ジャー入りのコイーバ・クラブ。
彼はぎこちなく左手でそのシガリロを扱い、紳士に火を点けてもらう。

彼は幼少時代、沢山の愛情をくれた母親を失う。
その耐えがたいほどの気持ちは、経験した者にしかわからない。
そして昨年祖母を失った。
10年ほど前、彼は僕と一緒にカウンターに立っていた。
ロン毛で茶髪、色男の彼は異常なほどの優しさを持ち
外見には似合わなく、非常に生真面目な男だった。
短期間で数々のカクテル・レシピを暗記し、ステアも上手な男であった。
話が好きで、ときどき暴走するものの
いつも当店の薄暗いカウンターを、明るくしてくれていた。
そんな彼がある日、右手を失った。
それは僕にとっても強烈な出来事、今でもあの動揺を思い出せる。
そして同時に彼の見えない右手の替わりであった者に、裏切られる。
信頼していた愛する者に・・・
人が生きるということは、楽なことなどではない。
苦境の連続である。
しかし、僕は彼を可愛そうだと想うことはない。
彼が言った。
「人間真面目にコツコツやるのが一番ですよね。」
僕もそう想う。
彼はただ、器用に生きられないだけの男なのだ。
先日、このブログの読者だという、ある方からメッセージを頂いた。
「作り話ばかり。」
「気取りやがって。」
極論、BAR は数々のお酒と、バーテンダーしか無い空間です。
そんな空間へ、わざわざいらっしゃってくれるお客様の全てが
主役なのだと、僕はいつも想っています。
バーテンダーは決して、主役ではありません。
僕等バーテンダーは、いつも皆様を支える黒子で良いのです。
僕は気取っているつもりなどございません。
ただ、当店の主役達は皆、素敵な方々ばかりなのです。
完璧な人間など、この世に存在しません。
しかし、完璧ではない人間でも、必ず輝く何かをもっています。
僕はそう想いながら、そして失敗を何度も繰り返しながら
毎夜、数々の思い出と僕の愛着が染み込んだカウンターを挟み
皆様方と接しています。
昨年のこの時期、彼は初めて葉巻を燻らした。
そう、忘れもしないコイーバ・シグロⅢ。
昨夜のシガリロ同様、とってもぎこちなく。
寿彦。
夜寝る前に部屋の電気を消したあと
辛くなるのは君だけではありません。
車を運転しているときに、ふと、寂しくなるのも君だけではない。
君だけが不幸なわけでもありません。
皆が同じような悩みを抱えながら、生きているのです。
もちろん、この僕もそうです。
きっと君は色々な物を失った分、何かを得ているはずです。
まだそれを感じられない部分も、あるかもしれません。
辛くなった時は、いつでも気軽に遊びに来て下さい。
僕は君に助けられた、一人でもあるのです。
そして、君は間違いなく、僕の右腕だったのですから。
僕は、君との出逢いに感謝しています。
こんにちは(・∀・)ノ
その右手、握手した時にとっても温かくて柔らかい優しさの溢れる手でした。
S様のお店で出会えた素敵な方。また皆さんとお話したいです(^-^)
カイママ 様
こんにちは。
コメントありごとうございます。
実はその瞬間、僕はご主人とお話をしていたのか、見ていませんでした・・・
でも後日、その場にいらしたお客様にうかがいました。
「あの瞬間の光景、すごく良かったよ。
失った右手を躊躇なく差し出した彼、そして、その右手を躊躇なく握り返した彼女。
感動したよ。」
と。
僕はそれを聞いて胸がジーンとなりました。
僕からカイママさんにお礼を言いたい。
本当にありがとうございます。
カイママさんの優しさに感謝です。
また皆でお話をしましょうね ♪
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